
hERGベストプラクティス試験の背景
非臨床試験におけるイオンチャネルデータは、医薬品開発プログラムにおける規制当局の意思決定に重要な役割を果たすとされています.中でもhERGチャネルの阻害に関する評価は、QT延長やTorsade de Pointes (TdP) といった致死的な不整脈のリスクを予測する上で極めて重要な情報となります。しかしこれまで、hERG試験に使用される細胞系、実験プロトコル、測定方法、解析手法などは、評価機関ごとに異なっており、これらの違いは試験結果に大きな影響を与えるだけでなく、データの再現性を損ない、ヒトでの臨床的リスクへ正確に外挿することを困難にしていました。
こうした背景を受けて、ICH S7B Q&A 2.1では、「再現性の高い評価」と「臨床予測性の向上」を目的としたベストプラクティス (Best Practices) に関する具体的な推奨事項が示されました。
David G. Strauss et al. Translational Models and Tools to Reduce Clinical Trials and Improve Regulatory Decision Making for QTc and Proarrhythmia Risk (ICH E14/S7B Updates), Clin. Pharmacol. Ther., Vol. 109, NUMBER 2, February 2021改変
hERGベストプラクティスとは
ベストプラクティスの導入により、hERG試験における実験条件や評価基準の標準化が進み、試験間のばらつきの低減及びデータの信頼性向上が期待されます。特に、生理的温度での測定に加え、生体を模倣した電位プロトコルを用いることで、従来法に比べて臨床での心筋活動により近い条件での評価が可能となり、in vitroデータの臨床的外挿性が高まります。さらに、データ品質、評価項目、データ要約内容、濃度検証、陽性対照の設定が明確に定められることで、試験の一貫性と科学的信頼性が確保され、非臨床から臨床への心毒性リスク評価の精度向上が期待されます。
現行のICH E14ガイドライン (臨床におけるQT間隔延長評価) では、ICH S7Bに基づく非臨床評価と関連づけたヒトにおけるリスク評価については、十分には言及されていません.しかし、ICH S7B及びE14のQ&Aでは、非臨床データと臨床試験の結果を統合的に用いたリスク評価の重要性が強調されています。
ベストプラクティスに基づいて取得されたデータは、初めてヒトに投与する臨床試験の計画や結果の解釈を裏付ける根拠となるだけではなく、開発後期段階において、TdPの統合的なリスク評価を行う際にも有用となります。
DSTCにおけるベストプラクティスの実績
DSTCは、国際的なベストプラクティスに基づいた試験体制の構築・運用において、日本国内をリードする存在です。特に、hERG試験においては、アジアで唯一HESI/FDA共同プロジェクト「Assessing Variability and Reproducibility of Manual and Automated Patch Clamp」に参画し、国内に先駆けてベストプラクティス試験の導入に取り組んできました。また、国内初となるhERGベストプラクティスに準拠したGLP試験を実施し、40件を超える試験実績を有しています。これまでに培った確かな実績と豊富な試験経験により、DSTCは国内において高い評価と信頼をいただいております。
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【関連ページ】各種イオンチャネルに対する電気生理学的評価(hERG・Nav1.5・Cav1.2)
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