
hERGチャネルとは?
hERG (human ether-a-go-go-related gene) は,KCNH2という遺伝子によってコードされる電位依存性カリウムチャネルの一種であり,特に心筋細胞において重要な役割を果たしています.このチャネルは、IKr (rapid delayed rectifier K⁺ current) と呼ばれる電流を担っており,主に心筋の活動電位の再分極相 (第3相) に関与しています.再分極の過程では,細胞外へのカリウムイオン (K⁺) の流出が促進されることで,細胞内の電位が再び負に戻ります.hERGチャネルを介したIKr電流は,再分極を円滑かつ迅速に進行させる上で重要な役割を果たしています.
hERGチャネルが阻害されるとQT延長 → Torsades de Pointes (TdP) → 致死的不整脈 を引き起こすリスクがあります.hERGチャネルの阻害性を確認することは、医薬品候補の心毒性評価の第一ステップとして極めて重要です.
QT間隔とは?
QT間隔とは,心電図ECGにおいて心室が電気的に興奮 (脱分極) してから,元の状態 (再分極) に戻るまでの時間を指します.すなわち,心室が収縮を始めてから完全に弛緩するまでの電気的な活動の持続時間を示しています.QT間隔の延長は,致死的な不整脈であるTorsades de Pointes (TdP) の引き金となる可能性があります.
【出典】Jose Vicente et al. Mechanistic Model-Informed Proarrhythmic Risk Assessment of Drugs: Review of the “CiPA” Initiative and Design of a Prospective Clinical Validation Study, Clinical Pharmacology & Therapeutics, Volume 103, NUMBER 1, JANUARY 2018
Torsade de Pointes (TdP) とは?
Torsade de Pointes (TdP) は,心電図上で多形性心室頻拍として現れる重篤な不整脈であり,QT間隔の延長を基盤として発生します.心室細動へと移行することもあり,突然死のリスクを伴います.TdPの発生リスクを正確に予測することは難しく,一度発生すると致命的となる可能性が高いため,医薬品開発においてそのリスクを評価することは極めて重要です.
【出典】Jose Vicente et al. Mechanistic Model-Informed Proarrhythmic Risk Assessment of Drugs: Review of the “CiPA” Initiative and Design of a Prospective Clinical Validation Study, Clinical Pharmacology & Therapeutics, Volume 103, NUMBER 1, JANUARY 2018
なぜベストプラクティスでの評価が推奨される?
hERGチャネルアッセイの結果は,使用される実験プロトコル,細胞系,測定方法,解析手法などの違いによって大きく影響を受ける可能性があります.このような実験系のばらつきは,薬剤のhERG阻害作用に関するデータの再現性を低下させるだけでなく,in vitroで得られた結果をヒトでの臨床的リスク (QT延長やTorsade de Pointes) に正しく外挿することを困難にしていました.これを受けて,ICH S7B Q&A 2.1では,「再現性の高い評価」と「臨床への予測性の向上」を目的としたベストプラクティス (Best Practices) に関する具体的な推奨事項が示されました.
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【関連ページ】各種イオンチャネルに対する電気生理学的評価